個人的にマイナスイオンをうたう商品に恨みがあるので今回の記事はちょっと脱線気味なうえ長くなる。私念のなんと恐ろしいことか。とりあえずこのネックレス RAYZEN-TX300という某アイルビーバックみたいな型番の商品の説明文を転載する。
【スポーツエンハンサー】
スウィングパワー、パッティングの集中力、 瞬発力、 速度増加、 長打力、 正確な打撃、 一定したストローク、 安定したスイング
【製品特徴】
・マイナスイオン 1600ino/cc 以上 ・遠赤外線放射率 90.1% ・100% ハンドメイド製品 ・製造元 : フェイバー
【Washing】
(不毛なので省略)
落ち着いてゆっくりと進めたい。そうだ、こんなときはマイナスイオンを浴びよう。
マイナスイオンという言葉は昔習った陰イオンとはまったく別であるらしく、「負に帯電させた何か」を総じて指す言葉らしい。健康への影響に関して科学的な根拠は一切無い。まともに書くと長くなるので『マイナスイオン 嘘』と検索するか、下記のPDFを参照してほしい。
⇒
【PDF】「マイナスイオン」どこがニセ科学か
今回ぼろくそに言っているネックレスのマイナスイオン発生方法は、PDFの中の「その他不思議な方法」に属するゲルマニウムやセラミックを利用したものらしい。この手の商品は「病気が治る」とはっきり言ってしまうと薬事法違反になる。そのせいかは知らないけど「スウィングパワー、パッティングの集中力、 瞬発力、 速度増加、 長打力、 正確な打撃、 一定したストローク、 安定したスイング」、なるほど。列挙しただけでそれ以上は踏み込んでないぞと。この部分だけ読むとまるで魔法のネックレス、100個ぐらい体に巻きつけたらマイナスイオンパワーで空を飛べるんじゃないだろうか。
ネックレスの場合マイナスイオンが何を指すのかは知らないけど、発生量だけ見ればこれはものすごく少ない。「1600ino/cc」というのはたぶん「1600"ion"/cc」の打ち間違いで、さらに言うと「1600個/cc」の事だと思う。どれぐらい少ないかは下記のサイトから引用。
⇒
マイナスイオンってなに?
-----------------引用開始------------------
マイナスイオンの発生能力のカタログ値は、だいたい数百~数万個/ccみたいですね、たったの。これって多いように感じると思いますが、実際にはめちゃくちゃ少ないのがわかりますか?ちょっと計算してみますよ。
仮に最高の10万個/ccのマイナスイオンが空気中にあるとします。 ちなみに10万個/ccというのは今の化学では分析が非常に難しいレベルです。
1リットル中には1億個、1m3中には1千億個、 一部屋にはかなり多く見積もって10,000,000,000,000個(10兆個)程度あることになります。
では最高ランクの毒性を持ってるサリンと比較してみましょうか。致死量は約0.5mgで、分子量は140です。ほとんどの人はアボガドロ数なんて忘れてることとは思いますが
0.5mg→3.6×10-6mol→2,150,000,000,000,000,000個
つまり約200京個の分子があってやっとヒトが死ぬわけですな。一部屋全体のマイナスイオンより数ケタおおいわけです。要するに、マイナスイオンはサリンよりも数ケタ少ない数で健康に影響する恐ろしい物質なわけですわ。ここらへんで、デタラメさに気がついて欲しいところです。 ましてや某飲料に入ってる「1000mgのビタミンC」や「1000mgのタウリン」なんぞ、マイナスイオンより10ケタくらいたくさん入ってる計算になります。
ついでにいいますと、水1グラム中に水分子は3×1022個ありますが、「ごく一部」は
H2O → H+ + OH-
の形で電離しています。こうしてでてくる「OH-」ってマイナスイオンではないのデスか?「ごく一部」とはいっても純水1グラム中で約60,000,000,000,000個もあるんですが
-----------------引用終了------------------
広報A 「○○個/ccって書くとなんか少なく感じね?」
広報B「俺もそう思う」
広報A「じゃあ○○ion/ccならどうよ?良くね?」
広報B「俺もそう思う」
広報A「えっとじゃあもう適当に説明しとけばいっか?」
広報B「俺も(省略)」
こんな感じで決まったのだろうか。ion/ccという単位に危うく騙されるところ。大人って怖い。
さてトイレ休憩を挟んで次は「遠赤外線」。これもまた使いやすくてそれっぽい言葉だわね。
赤外線というのは、目で見える可視光(波長の短い順に紫・青・緑・黄・橙・赤)の赤色の波長の、次に波長が長い電磁波のこと。つまりギリギリ見えそうで見えないチラリズムな光とでも言っておく。
具体的な波長の長さは0.7μm~1000μmで、その中で4μm~1000μmの範囲の赤外線を遠赤外線と呼ぶんだって。0.7μm~2.5μmの範囲は近赤外線といってリモコンなんかに利用されてるって近所に住んでるウィキさんが言ってた。
じゃあ赤外線は人体へどういう影響を与えるのかというと、それはなんてことないただの『熱の移動』。神秘のパワーなんてもっていない。血行促進なんかに利く可能性は無くは無いらしいけど、それはストーブくらい高温のものが発する赤外線の話で、常温程度で何らかの生理作用を引き起こすことはない。
「遠赤外線を放出するネックレスをすれば患部が温まって能力が上がるのんじゃない?」と思うかもしれないけど、それも残念ながら、いや、喜ばしいことに、いや、笑えることに違う。下記のサイトを引用させてもらう。
⇒
遠赤外線加熱の嘘の宣伝について
-----------------引用開始------------------
悪質業者の嘘事例-2. 遠赤外線放射体は常温でも温かい→あり得ない
「遠赤外線を出すセラミックが布に織り込んであるので暖かい」などという宣伝が大手メーカーの商品ですら見られましたが、これらは全くの嘘です。熱は温度の高いところから低いところにしか自然には移動しません。これは「熱力学第二法則」とよばれており、現代科学の基本法則です。
~~~(割愛)
どのような条件下でもこの2つの法則に反する様な現象は全く発見されていません。電力等のエネルギーを供給しないのに熱エネルギーを放射し続けて暖かい材料などあるはずがないのは明白でしょう。
~~~(割愛)
常温でも、どのような物体からも常に遠赤外線は放射されています。放射率が高いとたくさんの遠赤外線を出して周囲を温める、などという事はありません。熱の移動が起こりやすい、というだけのことです。そして前記した様に遠赤外線などによる熱エネルギー移動は温度の高いところから低いところにしか絶対に移動しません(あらゆる波長において)。
同じ温度であれば、どのような特定の波長をとってみても相手から遠赤外線エネルギーは一切受け取らないし、相手に渡す事もない。もし「特定の波長のみにおいてであれば移動が起こりうる」と仮定すれば、工夫すれば永久機関(第二種)が作れてしまう事になるが、これは熱力学第二法則で否定されています。この間違いは良心的な電熱メーカーのHPですら見られます。
-----------------引用終了------------------
私の説明より引用させてもらったサイトを読んだほうが100倍はわかり易い。興味のある人はいってらっしゃい。ちなみに同サイトで紹介されていた表で、人間の遠赤外線放射率は98%。もう忘れたかもしれないけど最初に転載したネックレスの遠赤外線放射率は90.1%。・・・あなたの目は正常です。
指でわっかを作って首に巻いたほうが効果が大きいのかも知れない。効果っていうのはそれはつまりちょっとだけ保温できるってことね。
ところで商品の仕様説明の方に『遠赤外線協会認証』なる文字が。なんぞそれ。
検索したところ、赤外線に特化した日本で唯一の公益法人らしい。崇められた鰯の頭みたいな宗教団体かと一瞬期待したのは内緒。
認定基準合格+お金を払うと認定マークを押してくれるらしくて、平成22年9月10日時点での認定総数は119商品。これって多いのかな。なんにせよ認定マークの重みは認定基準の高さに比例するから、基準を知りたい。と、思ったら三千円払って資料請求しろだとさ。もう一生知らなくてもいいや。
要するにこれはただのカラフルなネックレス。
この記事書くのに2時間。残ったのは虚無感のみ。目を塞いで枯葉を数える如しかな。
PR
COMMENT