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あまぞんな日々

   

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本【「変身」 東野圭吾著】



一つ前のレビューで新潮を押したのに、この本は講談社。だって面白そうだったんだもの。

1991年に発表された比較的古い作品なんだけど、偶然に見た同原作の映画が『あまりにもつまらなかった』ので、この映画の源泉とはいかなる物か逆に興味を惹かれ読むにいたった。結果はいい意味で裏切られた。面白い。むしろ、映画のクソさ加減に磨きがかかった様に感じられもする。
そういえば宇宙戦艦ヤ~マ~ト~♪ ダンダカダンダカ・・・、も映画化したよね。検索に引っかかって、ファンにドタマカチワラレたくないので名前は出せないけど、主人公に中年一歩手前の某男性を起用したのには驚いた。別段彼が嫌いなわけではないけど、予告で見た波動砲を発射するシーン、右耳から左耳へ抜けるような白けた専門用語を並べるシーンには鳥肌が立った。無論、別の意味で。

流れに驚くほど関係ないけど「オットット」ってお菓子のカニの舌触りが好きです。

【あらすじ】
心優しい青年である主人公は、不慮の事故によって脳に損傷を負う。命を取り留めるため、彼に世界初の脳移植手術が行われた。手術は無事成功した、と思われたが主人公は自らの中の「何か」が徐々に変化していくのを感じていた。その違和感は、やがて考え方や言葉遣いまで変化させてゆく。自分が自分で無くなっていく恐怖、主人公はこの『変身』に必死に抗う。


全体を通して主人公の視点から語られる。刻々と変化する主人公の描写がこの小説の醍醐味で、推理要素は申し訳程度にしか出てこない。しかしそれでも結末がどうなるのだろうかと先へ先へ、ハラハラしながら読み進めたくなったのは、いい意味で、主人公が雑に扱われていたからだと思う。妙に箱入りしていないので、この先こいつは何をするのだろうか、と型に捕らわれずに楽しめる。主人公が絶対に負けないマンガは流行らないというわけ。

ただ終盤になるにつれ、呆気にとられる、は言い過ぎだけど荒削りというか、手早く纏めすぎているよう場面が多くなるように感じられた。うまく言いにくいけど、著者が早く終わらせたがっているといった印象。察するに、じわじわと上がる「盛り上がりの振幅」を最後の数ページにおいて最大にしたかったのだと思う。その結果、細かい描写を省かざるをえなくなり、良く言えば蛇足をまったく感じさせなかったけど、悪く言えば読者を置いてきぼりにしていた。

あと性表現が直球で、ウブな少年には結構過激。R-15。わーお。

読み終わった直後、自分とは何かを深く考えさせられた。彼が最後に発した一人称にまで注目して読んで頂きたい。後味は決してよくはないけど、救いもあるのでどっこいどっこい。全体の構成が非常に綺麗というか、音楽的だとも感じられた。読書が苦手な人でも比較的読みやすい部類に入ると思う。


本自体の感想はここまでにしてちょっと蛇足。
いったい人間の、いや全ての生物の魂はどこに宿るのだろうか。カルトのようでいて、実は科学的な目線で見てもこの命題は興味深く、恐ろしい。

例えば1970年頃、Dr Robert White氏によって猿の首をすげ替える手術は実際に成功している。つまり2匹の猿の首と胴体を「生きたまま」切り離し、交換するということ。とんでもなくグロい。その猿達は脊髄の神経が問題で胴体不随だったものの、長くて1週間生き続けたそうで、視覚、嗅覚、聴覚はどれも正常。肉体も『物理的』には生きていたそうである。

実験後の猿が抱く意識は、果たしてどちらの猿と同じなのだろうか、或いはまったく別物か。猿が死ぬまでの一週間に何を感じていたかは想像を絶する。現在でもこの非人道的な実験は水面下で行われているのだろうから、いずれ答えは出るかも知れない。
一応言っておくと、この実験に対して肯定的ではない。けど、動物実験の享受を私も少なからず受けているわけで、科学者のすることと言い訳して強くは言えない。まあでもせめて本人の同意ぐらいは取ってやって欲しい。動物語を翻訳するサルリンガルとネズミンガルの開発が急がれる。

さて、あなたは生物の魂はどこの宿ると考えるだろうか。「意識なんて結局電気信号だから脳に決まってる」あるいは「心臓移植で嗜好が変わった例があるから全身だ」、「知らなくても今日もメシがうまい」。実際に首をすげ替えて貰えば分かるかもね。私は、そうだな・・・キリン辺りと交換希望で。あ、でも吹き抜け住宅に引っ越さないと駄目なのか。じゃあ猿で妥協しよう。

最後に一つ。小説の中で主人公がこんなことを言う場面がある。
「仮に、10%の脳を取り替えたとして、僕は心を保ったとします。では20、30、40%と上げてき、僕自信の脳を1%残して99%取り替えた時、脳によって生み出される心は僕のものと言えるでしょうか」


これは『変身』を読んだ人間にだけ分かることだけど・・・若生さん、強く生きろ。
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